FC2ブログ
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告
終盤
依然として緊張した空気は解けることがない。不自然な間は、次の母の言葉によって取り繕われた。

「違うのよ…違うの。」

母は言った。僕らは至って状況が飲み込めないままだ。

「乗船券は、3人分なのよ」

「私たちは行きの乗船券と、この黒い箱を持たされて船に乗ったの。この島に上陸するまでは開けてはいけないって言われて。」

母は困惑したように続けた。

「それで、島に着き次第、子供たちの指示に従うようにって…」

僕らは息を呑んだ。

「この箱、どうすればいいの?」

最後の宝箱を僕らはとうとう見つけた。

中身はわかりきっている。

海岸から距離をとった船がこちらを嘲笑っているように感じられる。

…最後の選考会。

きっと主催者は、デッキでグラスでも傾け合いながら待っている。

この船の乗客、つまりはこの惨憺たるゲームの勝者を。

いま、この島にいる人間は自分達を含めて30人。

おそらく、僕らを除いた27人の「片親」は知らない。

僕らが拳銃を持っていることも、その箱の中身が銃弾であることも。

渡して、といえば素直に渡すだろう。

しかし、渡してもらったら当然、中身について聞かれるだろう。

見せろ、とすら言われるかもしれない。

いま、大人たちはこの箱の「未知数」によって制されている。

僕ら子どもが平然と開けるような素振りを見せれば、勿論のように介入してくるだろう。

この最後の選考会をどう乗り切ることにしようとも、主導権を大人に渡すわけにはいかない。

僕が考えあぐねていると、堪えきれなくなってか、ヤスが母親に食って掛かった。

「なにしてんだよ!?あの馬鹿親父は一緒じゃねぇのか??」

「御両親のどちらかのみ下船できますって言われたのよ!知らないわ…もう何なのここ」

自分に暴行を繰り返している父親でも、やはりこの状況下では気になるのも無理はない。

主催者は、僕らに「救いの手を差し伸べる企画」だと言っていた。

ヤスや亮介が気づいているかは定かではないが、僕の中には必然的に嫌な仮説が生まれる。

僕らは3人とも、親からの虐待を受けて育ってきた。

それはきっと、このゲームの参加者全員に共通して言えることなんだろう。

大人たちの顔を見ればわかる。困惑しているが、子どもの心配より自分の身を案じている。

感覚的にわかる。彼らは子どもより自分をはるかに優先して生きている。

ヤスと母親のやりとりが続く。

「いったいあの船はどうなってるんだ?」

「知らないってば!」

「俺らが下りたあとはどうなったんだ!?」

「雑魚寝するような大広間に通されて、そこで寝泊りよ!」

「他になんもなかったのか!?」

「殆どの場所が施錠されてて立入禁止。デッキにすら出れなかったんだから!」

「そりゃよかったな、何もなくてよ」

「どういう意味!?」

そこで若干、空気が変わった気がして、僕はヤスに目で合図した。

目の前で困惑している母親から箱を受け取り、即興で今後の展開を演説することにした。

箱を受け取った僕に、大人たちの視線が集中する。

僕は、あらん限りの創造力を振り絞った。


―この箱には、僕らに宛てられた指令が書かれているはずです。

僕らが最後に見た指令状にそう書かれていたのです。そこにはこうも書かれていました。

『絶対に 大人の手や知恵を 借りてはいけない』

ですから、この箱の中身をお見せすることはできませんし、このあと僕らについてきて

いただくこともできません。どのくらい時間がかかるかは判りませんが、僕らが指令を達成して

此処に戻るまで、どうかお待ちいただきたいと思います。―

すぐに怒号にも似た質問が飛ぶ。

「待たなかったらどうなるってんだ!?」

「それにはうちの子も関与しているんですか!?」

僕は落ち着いて、ヘマをしないように辻褄を合わせる。

―待たなかった場合にどうなるかはわかりません。ただし、僕らは全員船から下ろされ、

命の保証がされていないということだけは確かでしょう。―

「はっはっは、何を正義の味方気取りでいやがる!大人をなめてんのか!!」

「命の保証がないって、どういうこと!?息子は無事なんでしょうね!?」

様々な憶測と野次が飛び交っている。命の保証ってのはまずかったかと今更悔やむ。

しかし、こうやって表現するほかないような気もした。

その時だ。

苛立ちがついに頂点に達したか、ヤスが叫んでしまった。

「うるせーよ!てめぇらのガキはみんな死んだ!!死にたくなかったら黙ってろ!!」

凍りつく空気とはこのことだろう。一瞬で、それまで飛び交っていた言葉の群れが引いていった。

しかしそれも一瞬である。冷静な大人たちは、再び思い出したように怒号を飛ばしてくる。

「ふざけてんじゃねぇ!死ぬだの殺すだの簡単に言いやがって!」

「息子をどこへやったのよ!いい加減にしてよ!」

「おまえら、只じゃ済まさないからな!!」

…もはや収拾がつくような状況ではない。

ヤスでさえも、この事態には戸惑ったような表情を見せている。

「智哉、こいつらどーすればいいんだ…」

黙っていた亮介が弱弱しく聞いてくる。

ヤスは呆然として立ったまま動かない。

僕はこのままでは埒が開かないと思い、デイパックから最後の手段を取り出す。

僕は拳銃を持つ手を天に向かって一回大きく伸ばしてから、それを自分の母親に突きつけた。

「おとなしく下がれ。全員黙って、その場に座れ」


「とも…や…?」

「お母さん、大丈夫。撃たない。下がってくれればいい。」

母はそれでも動揺したか、多少おぼつかない足取りで数歩距離を置いた。

さすがの大人たちも驚いた表情は隠せず、黙って指示に従った。

僕は演説を続ける。

―いいですか。これは思っている以上に深刻な事態なんです。冗談かと思うかも知れませんが、

あなた方のお子さんは全員すでに絶命なさっています。それもこれも全て、こうなるように仕組んだ

主催者側の意図によるものです。このゲームの主催者は慈善活動をやってるわけじゃない…。

彼らは人の死から利潤を生み出し、それを賞金だとして分け与えようとしているだけなんです―

何故自分でもここまで他人事のように喋ることができたのか定かではない。とにかく伝えよう、

理解してもらおうとすることで頭が一杯で、文章を構成することなど不可能だった。思いつくままに

現状を言葉にした、それだけだった。

―みなさん、僕は死にたくありません。―

「俺もだ!!」

「僕だってやだよ!!」

ヤスと亮介が続く。


―僕らはこの島に下ろされてから今まで、生にしがみついてきました。そして、今もなお、

生き残ることを第一に考えています。それは、みなさんも全員同じはずです。―


僕はそういって辺りを見回す。

誰もが、当たり前だという表情で僕へ視線を送っている。

僕は誰にともなしに小さく頷き、ゆっくり息を深く吸い込んだ。


―このゲーム、誰も負けてはいけない。勝たなければいけない。そのために僕らがしなければならな

いことがあります。―


ヤスと亮介がこちらを見る。

大人たちも、その場にいる全員が僕の次の言葉を待っていた。


―それは、一度、死ぬことです。―


いよいよ、ラストステージが始まる。


主催者は銃声を待っていた。

合計で20発。乾いた空に響く鈍い音。それを主催者は待っていた。

生き残りが、船へと戻る。その時の表情を見るのもまた、楽しみだった。

そして、最後にその生き残りをさえ、殲滅するのも。

主催者の描いたストーリーは、そのキャストによって味わいを増し、非常に深みのある、

最高の出来映えになっていた。

ついに、最終章の幕が開けると思うと、心が疼いた。


デッキ、客室には黒服を配置してある。

島にいる人間の声は、最後の黒い箱に取り付けた小型マイクから

船内のスピーカーに流れた。

音が途絶え、双眼鏡で生存者が3人であることをデッキで確認したら

船を島に近づけるように、操舵室に指示が出される手はずになっていた。

黒服は一言も聞き漏らさないようにスピーカーに張り付いていた。

一人の子どもの声が、延々と聞こえている。

そしてその子どもは、何かを必死に訴えている。

涙ぐましい努力を、しかし黒服たちは嘲笑するしかできなかった。

生存者が確実に3人になるまで、餓死させてでも船は近づけるな。

それが黒服に与えられた任務だった。


―いいですか、鬼ごっこの要領です。僕が合図したら、一斉にみなさん逃げてください。でも、

少しずつ間隔はずらしてください。それを僕が順番に撃ちます。遠い人から順番にしましょう。

その銃弾は確実に外します。が、とにかくみなさん、当たったフリをして倒れてください。船のデッキ

からはそこまで正確には見えないはずですから、それで充分です。あとは、何とかします―


黒服たちは少しこの子どもを見直した。銃弾の行方は双眼鏡を使っても確かにわからない。

その上、このブラフに銃弾を全て使い切ることになり、手元に残る武器はなくなる。

ここまでの賭けを極限状態にまで追い込まれた子どもがするならば、或いはスピーカーさえ

なければ判断に迷ったかもしれない、とみな思っただろう。

しかし、何とかしますという言葉だけは運任せで無責任に聞こえ、やはり子どもらしい詰めの甘さ

も感じさせていた。


―それじゃあ、合図は特にしません。僕が銃口をあなた方に向けますから、先ほど話したように

僕から遠い場所にいるかたから順番に逃げてください。しばらく撃たないこともありますが、全力で逃

げてください。そして撃たれたら、僕らと船から見えるところで倒れてください、いいですね。―


大人たちは不安を抱えたままだろうが、とにかく提案に頷いていた。


―では。―


僕は銃口を大人たちの群れに向け、次々と逃げる大人たちの、その2mほど上を撃った。

大人たちは見事な演技で倒れていき、中には数歩足を引きずってから倒れる人まであった。

そして1人、1人と倒れ、ついに一番手前にいた母親の番だ。

母親は僕との距離でもわからないくらい小さく頷いて、じり、じりと下がる。

今にも泣き出しそうな顔で震えながら下がる姿は役者顔負けの名演技だ。

そして、僕に背を向けて走り出した。


主催者が待ち望んだ、最後の鈍い音が鳴り響いた。

それを主催者が聞いたかどうかは定かではない。

いま、主催者は左足を撃ち抜かれ、砂浜に倒れた。


―みなさん、ご協力ありがとうございました。ゲームの、終わりです。―


僕は声高らかに叫んだ。

倒れていた大人たちが、事情も飲み込めず呆然としながら起き上がる。

僕は、苦痛に顔を歪める主催者に歩み寄って、そしてその身体を抱きかかえた。

「ごめんね、お母さん。」


「なぜ…こんなことを…」

「これ以上、先に進ませるわけには行かないから」





それからすぐに、船が島に寄せられた。

異変に気づいたのだろう、黒服に身を包んだ集団が慌てて僕の母親のもとへ走って来たのだ。

彼らは僕らを見るなり「まさか」という表情を見せたが、特に危害を加えられることはなかった。

彼らは興が冷めたように母親を船へと運び、僕らも全員船に乗ることを許可した。

もともと、共犯というよりは主催者以外は指示に従うだけの駒であったようだ。


母親は心の何処かで夫を―つまり僕の父親を恨んでいた。ネグレクトという手段で徹底的に僕を遠ざ

けた存在として憎んでいた。日増しにその思いは強くなっていたのだろうか、パソコンの検索履歴に

「ネグレクト」という言葉が一度だけ残っていた日があったことを覚えている。母親は夫の前では同調

を装い、その裏ではどうしたら夫のネグレクトを解消できるかと頭を抱えていたんだろう。今思えば、母

親が多数所持していたカウンセラーの名刺などは、母親自身の僕に対するストレスが原因で所持して

いたのではなかったのだと思う。恐らく、色んなカウンセラーのもとを回って話を聞き、対策を練ってい

たものと思われる。

「うちのお母さんなんて全然だめだ、船酔いしててずっと船内で寝込んでたんだって。だからこんなに

大きな事件の一部始終知らないみたいなんだよ、ホントやんなっちゃう」

「いや、亮介のお母さんはこれ以上ないくらい怖がりなんだろ?だったら無理に怖い思いをさせること

はないさ。いずれわかるかも知れないし、そのときにフォロしてあげればいいじゃない」

ヤスは横から俺が言ってきてやろうかと亮介をからかっている。ようやく僕たち三人にもいつもの笑顔

が、日常が戻ったような心地だった。それと同時に、今までの疲れがまとめて出ており、三人ともすで

に睡魔がすぐそこまで襲い掛かってきていた。

「もう寝ようぜ、さ~すがに疲れた」

「そうだな。明日の午前中には着くらしいしな、寝るか」

「じゃ、また明日ね!!」

亮介はそういうと我先にと部屋へ戻っていく。

「お母さんにいい子いい子してもらえよ、亮介!」

「しないよバカ!!」

亮介が角を曲がったのを見届けてから、僕たちも分かれて部屋に戻った。

「おかえり。」

そういって迎えてくれる父親はどこかくすぐったい気持ちがする。

「ただいま。」

僕は月並みに答えた。微かに父親が笑った気がした。

窓の外には引き込まれそうなほど暗い海と空に浮かぶ眩しいほどの明るい月だけが見えていた。

闇の中で僕たちを導いてくれる光。

それは大きな月でもあり、父親の背中でもあるような気がする。

この悪夢から漸く解き放たれるまで、あと6時間程度。

たった一晩。

それが僕と父親の一緒に過ごした最後の夜だった。


最後の「宝探し」を告げるサイレンが、闇夜を切り裂く。


「いいか智哉、よく聞け。船で待っている最中、俺は黒服の目を盗んで船内を色々調べて回った。そし

て器具庫にあったコイツを拝借しておいたんだ。」

そういって父親は部屋にある換気扇の奥に隠しておいたバールを取り出した。すると父親は窓際に行

き、思い切り窓ガラスを叩き始めた。窓ガラスはヒビこそ入るがなかなか割れない。父親は何度も叩

いた末、ようやく窓ガラスを割ることに成功した。確かに、この窓ガラスはバールでもない限り割れな

かっただろう。一仕事終えた父親は息を整えながら続けた。

「もし、火の手が回って、もう駄目だと思ったら、迷わず、海へ飛び込め。」

「父さんは!?」

「俺はこの扉を開けないといけない。」

「なぜ?一緒に行こう!危ないし、その扉はいくらなんでも壊せないよ!」

僕は父親の腕を掴んで引っ張る。父親という存在に久しぶりに触れた。そして、そんな僕をいとも簡単

に振り切る父親の強さも実感した。

「父さんが逃げたら、誰が母さんを助けるんだ。」

「だって母さんは父さんを殺そうとしたんだよ?いくら夫婦だからってさ…」

僕は父親を止めようと必死になるが、それでも父親は首を縦には振らなかった。

「バールはな…」

「え?」

「バールはな、器具庫に50部屋分全て置いてあった。ご丁寧に緊急時のマニュアルもな。わかるか?

母さんの部屋の分もないんだ。そしてこの扉は、火災発生時には内側から強制ロックがかかって、火

をくい止めるシステムになっている。母さんは何故バールを持っていない」

「それはお母さんが犯人だってばれないように…。」

「なら今の父さんのように隠し持っておけばいい」

「そうか…。いやでも待って。元から余分に持っていたならわからないし、第一この火災がお母さんの

仕業なら、もう部屋にはいないことになるよ!!」

「母さんの仕業…ならな。」

僕は言葉を失った。一体この人は何を言っているのだろうと思った。

「おまえが謎解きの説明をした後にな、俺は母さんの部屋に行ってみたんだ。黒服たちも夫だというこ

とで特別に会うことを許可してくれた。中にいたのは、椅子に座って縄で動けないように縛られ、ほ

ぼ監禁状態の母さんだった。中にいた黒服にやめてくれと言ったが、彼らは裏切られた身だからな、

全員下船して安全の確認がとれるまでは我慢してくれと言われた」

相変わらず火災報知器がけたたましく鳴り響いている。僕はまだ確信なんてものはなかったが、直感

で、それが母さんからのSOSであるように聞こえてきていた。

「それじゃぁ…」

「あぁ、他にいるはずだ。母さんは利用されたと俺は見ている」

父親の話は真実味を帯びていたが、確信が持てるような証拠はない。それ以前にそんなことを確かめ

ているだけの時間もなかった。父親は渾身の力で扉のロックを外そうとしている。その姿は鬼気迫るも

のだったが、不思議と安心感も覚えた。

五分くらいたっただろうか、ついに父親はロックを外し、扉を開けた。まだ部屋の前に火は到達してい

ないが、空気はやはり熱い。部屋のロックを解除するためには火災報知器の全体をコントロールして

いる機械のある場所まで行き、それを止めなければならない。だが、この犯行手口からすれば、火災

はその部屋で起きたか、もしくはその通路を絶つように火が回っているか、或いは客室からでは辿り

着けないような部屋が使われているかのいずれかである可能性が高い。それは父親も充分承知して

いるだろう。いま、僕が父親を止める術は恐らくない。僕は父親の背中をただ見つめていた。

「船から飛び降りたら、すぐに船の後ろへ回れ。俺からのプレゼント、最後の宝探しだ。」

僕には意味がわかなかったが、とりあえず頷いておいた。

「それじゃ智哉、また後でな。」

父親はそう言い残して出て行った。

海からの夜風が心地よい。僕は放心状態で父親の去った入り口を眺めていた。

父親から生き残るための道を用意してもらったというのに、僕の頭の中では今までの家族との思い出

が走馬灯のように駆け巡っていた。

それから5分くらい経っただろうか。父親が戻ってくることも、正面や隣の部屋から人が出てくることも

なかった。相変わらず火災報知器のサイレンは鳴り響いている。気付けば火はついに僕の部屋の中

にまで入り込んできており、煙も徐々に充満しはじめた。部屋の上部が黒く濁り、熱さと息苦しさが一

気に押し寄せてくる。煙を避けながら大きく息を吸った。

「先に行くよ!」

僕は部屋の外にまで届くように大きな声で叫ぶ。

僕はついに海へと脱出した。


僕が落ちたところから船の最後尾まではやや距離があった。父親の言いつけを守り、必死の思いで

泳いでいく。すると暗がりに、蛍光色の黄色が浮かび上がった。救命ボートだ。ボートは船の上からで

はギリギリ死角になる位置に、かなり長いロープで繋がれていた。父親は黒服の隙をついてこんなこ

とまでしていたのかと驚きを隠せなかった。黒服に見つかればいくらなんでも命の保証はなかっただ

ろうに。僕が勘定に入っていたかは定かではないが、少なくとも母親にとっては最高のパートナーだっ

たんだなと思った。僕はボートにしがみつくような格好で乗り込んだ。

その瞬間。前方でとてつもない爆発音がしたかと思うと、辺りが一瞬明るくなった。おそらく、オイルか

何かに引火したんだろう。僕はこのとき、両親や友達との別れを察知した。

幸い、ボートのほうへ船体の破片などが落ちてくることもなく、暫くするとまた静寂が訪れた。静かな

海の上に一人。自然と悲しみや悔しさがこみ上げてくる。犯人は母親じゃないとしたら誰なのか。

僕は暗闇の中で一人泣いた。そして夜空へ向かって祈った。

相次ぐ大きな事件に僕は力尽き、そのまま眠りに堕ちた。

一時間くらい経ったんだろうか、僕は大きな物音に目を覚ました。

船だ。

助けにきてくれたんだ。そう思うといてもたってもいられなくなった。僕は大手をふるって人を呼ぶ。

しかし船は僕に気付かないのか、通り過ぎようとしている。

僕は懸命に叫び続けた。

「助けてくれぇ!!助け…」

船内が僅かに月明かりに照らされ、僕は思わず黙ってしまった。

こちらを向いて少年が笑っている。

操縦は女性がやっている…母親だろうか?

僕は目を凝らしてみるが、月を背景にした船の位置もあり、よく見えない。

乗っていた少年が手元で何かしている。僕は身を乗り出して見ると、それは拳銃に弾を詰める作業だ

った。僕はその瞬間身を翻し、ボートの縁の部分に隠れる。

一発。…二発。

一発目は外れたが、二発目がボートに命中した。怪我こそ負わなかったが、弾丸はボートを突き破っ

てしまい、そこから見る見るうちに浸水し始めた。

船の動向を確認したい隠れ蓑としてのボートが役立たずになりかけている。これで銃撃が終わりとも

限らないと、僕は海に飛び込んだ。ボートにしがみつき、そっと顔だけ出す。船はそこまで離れていな

かったが、泳ぎで追いつける距離ではなかった。僕は呆然としながらも、船を睨み続けた。

すると船に、一瞬だけ電気がついた。乗っていた親子らしき二人の顔が鮮明に浮かび上がり、僕は愕

然とした。

「なんで?」

「どうして?」

僕は失意のなか、意識が薄れていくのを感じた。

ここまでかな、と僕は諦めた。

体が波に揺れてなんとも心地よい。僕は遠のく意識の中、海の静かなリズムに酔いしれた。


静かな波の揺れが治まっているのが


爽涼な青空から、陽の光が降り注いでいる。

その光が僕を温かく包み込んでいく。

僕が仲間だと思うには、少し心地よすぎる景色だ。




後日、僕は救急隊によって一命を取り留めた。僕は何故か救命ボートに乗せられて海を漂っていたら

しい。あのときボートは確かに沈んだはずだったが、とにかく僕は神に感謝した。

生きている。

僕はまだ生きなければならない。

事件は付近を偶然通りかかった漁船によって発見され、ただちに現場調査が行われた。船は火災に

よる被害が大きく、乗っていた客は僕と犯人を除いて全員の死亡が確認された。というのは、船自体

はあれだけの火災によっても沈没を免れたらしいのだ。犯人は未だ捕まっていないというが、僕は事

件を知る唯一の人物として捜査に協力することになった。行方を追っている犯人とされる人物の顔写

真を見せてもらった。あの船に乗っていた人物で、現場から遺体が見つからなかった人物。それは紛

れもなく僕を嘲り笑って去っていた人物に相違なかった。

いつか、渋谷の路上でアンケートの協力を仰いできた母親と、僕とヤスをこの宝探しに巻き込んだ息

子。現在、彼らは海外を逃亡中とみられ、捜査が進められている。


なお、この事件の犯人とはされていないが、船から遺体が発見されなかった人物がもう一人いた。

スポンサーサイト
【2008/08/21 22:51】 | 未分類 | トラックバック(0) | コメント(0)
<<中盤 | ホーム | バックアップ用>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://11fortminor28.blog62.fc2.com/tb.php/3-1fc075f2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
CHLOE DARKSIDE


プロフィール

Chloe

Author:Chloe

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。